虫籠窓(むしこまど)に糸屋格子(いとやごうし)、犬矢来(いぬやらい)…京都には昔ながらの街並みを今に残す町家が今も大切に受け継がれています。江戸時代より呉服商を生業としていた杉本家もその一つ。市内最大規模を誇る貴重な町家は、「杉本家住宅」として国の重要文化財に指定されています。「鰻の寝床」といわれるほど細長い京町家。その奥には、京都の暑い夏を快適に過ごすための知恵と工夫が隠されています。
日本の美意識がつくる「しつらえ」とは
季節とうつろう町家のしつらえ
日本の四季を細分化する二十四節気、七十二候。しつらえには、そんな細やかな季節の移り変わりが反映されています。杉本家住宅では、3月の雛祭り、5月の端午の節句、7月の祇園会の屏風飾りと、節句や祭礼の貴重なしつらえを公開。豊かに表情を変える町家の姿に、何度足を運んでも見入ってしまいます。特に季節を大きく分ける建具替えは、町家に欠かせない大切な行い。杉本家では、半年の穢れを祓う意味を込めて6月末の大掃除の際に夏の建具替えが行われます。和紙の温もりを感じる障子や襖から、涼しげな葦戸(よしど)や簾(すだれ)へ。蔵に仕舞われていた夏の建具へと家中を取り替え、新たな気持ちでハレの日である祇園祭を迎えます。
植物素材が涼しげな夏のしつらえ
ひっそりと薄暗い家のなかから、庭の青さが際立つ町家の夏。厳しい暑さを快適に乗り切るための工夫が至るところに。夏の建具は厳しい日差しを遮るだけでなく、植物のひんやりとした質感と使い込むごとに深まる色味が体感的にも涼をもたらします。夏の町家でよく見られる葦戸、簾、葦簀(よしず)は、葦(よし)という植物や、竹などから作られたもの。葦戸は襖や障子に変わる建具、簾は横向きに編まれた室内のしつらえ、葦簾は縦向きに編まれた屋外のしつらえを表します。いずれも庭からの風をよく通し、部屋の温度を下げる優れもの。敷物や花入れも竹や木の皮を編んだ夏のものへと変わり、季節の草花や流水を描いた掛け軸がさらなる清涼感を演出します。
杉本家に見る夏のしつらえ図鑑

布の簾(すだれ)
6代目当主の着物を仕立て直して作られた正絹の簾。竹や葦といった一般的な簾に比べて軽くしなやかなため、風の動きがよく見えます。庭からの風を受けて舞い上がる優美な姿に惚れ惚れ。形を変えながら150年以上前の着物を受け継ぐしつらえには、物を大切にする杉本家の精神が息づいています。

葦(よし)の簾
葦とは水辺に生息するイネ科の植物のこと。簾のほかに葦簀や葦戸など、古くより日本の伝統的な家屋に多く用いられる素材です。藍染めの布で縁取られ、絞りのような模様が水面を思わせる杉本家の簾。夏の日差しを遮ることはもちろん、空間を仕切り、爽やかな藍色と風通しの良さが涼感をもたらします。

杉戸
障子に代わる夏の建具といえば葦戸。杉本家でもあらゆる部屋に用いられていますが、西本願寺と深い関わりを持ち、先祖の思い入れが強い仏間だけは少し特別。杉の木を細いひご状にして麻縄で止めた「杉戸」が夏らしくも重厚な存在感を放ちます。葦戸と同じく強い日差しを遮り、外からの風を通します。
季節を愉しむ町家の庭
現代の暮らしに、涼やかな京の手仕事を
町家や伝統的な日本家屋に住んでいなくても、一つ取り入れるだけで京都らしい夏の装いに。竹やガラスといったアイテムは、普遍的な美しさに加えて夏には涼をもたらします。老舗から現代作家まで、モダンなインテリアにも馴染む京の手仕事。いつもの部屋に添えれば、自然と季節のうつろいを愛でる気持ちが芽生えます。お気に入りを眺めるだけの贅沢な時間。何気ないひと時が日々の喧騒を忘れさせ、心を豊かにしてくれます。

【公長斎小菅】〜熟練の職人技が光るモダンな竹芸品〜
1898年に創業した竹細工の老舗。お弁当箱やお箸、ワインクーラーなどの食にまつわる商品も人気ですが、花かごに季節の花を生けると、ぐっと夏らしく。美しい竹の編み目に熟練した職人技が光ります。季節を問わず愛用できる竹のインテリアも夏には涼しげな印象を与えます。

【花政】〜都を彩る老舗花屋から和の草花を〜
江戸時代より河原町三条で商いを続ける老舗花屋。山野草や和花を得意とし、名だたる料亭や菓子処、寺や茶室で生け込みを行う名店です。花を生ける花材がなくても、アレンジメントや鉢物なら持ち帰って飾るだけ。信楽の鉢や竹かごなど、和の花器に合う可憐な花たちが京都らしさを咲かせてくれます。

【Scape ガラスと植物】〜鮮やかなグリーンとステンドグラス〜
ステンドグラス作家・西冨なつきさんによるアトリエ兼ショップ。照明やモビール、アクセサリーなど、多彩なガラス作品が並ぶ店内で、ひときわ目を引く鮮やかなグリーンたち。着生植物とクリアガラスを合わせたみずみずしい作品たちが夏の日差しに輝きます。暑い日も生き生きとした姿に元気をもらって。
京都のしつらえギャラリー
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※写真はイメージです。
※掲載内容は2025年5月14日時点の情報です。最新情報は各掲載先へご確認ください。